神戸という街には、どこか音楽が似合います。港から入ってきた文化と、坂の上の異人館。海の匂いと、夜になると灯る三宮の明かり。そんな街の片隅で、レコードに針を落とし、静かにジャズを聴く——神戸でジャズを聴くということには、この街ならではの、少し落ち着いた時間の流れがあるように思います。

「神戸でジャズが聴ける店を探している」。そう思って、この文章にたどり着いた方もいるかもしれません。北野坂で六十年近くを過ごしてきた「さりげなく」という小さな店から、神戸でジャズを聴くということについて、少しだけお話しさせてください。

ジャズ喫茶と、ジャズバーのあいだ

神戸でジャズを聴ける場所には、大きく二つの色合いがあります。ひとつは「ジャズ喫茶」。コーヒーを片手に、ただ音に集中するための店です。もうひとつは「ジャズバー」。お酒を傾けながら、夜の時間としてジャズに寄り添う店です。

「さりげなく」は、そのちょうど間にあるような店かもしれません。看板には Jazz & Booze と掲げていますが、その中身は、ジャズ喫茶のように音を大切にしながら、ジャズバーのようにグラスを傾けられる場所です。かつては喫茶として始まり、いまも「酒処さりげなく」「喫茶さりげなく」と、いろいろな呼ばれ方をしていただいています。どう呼んでいただいてもかまいません。ただ、ジャズが流れ、静かに飲める。それがこの店の姿です。

レコードで聴く、ということ

この店で流しているのは、1950〜60年代を中心としたジャズのレコードです。配信でどんな名盤もすぐ聴ける時代に、なぜレコードなのか。理由は、たぶん「手間」そのものにあります。盤を選び、そっと針を落とし、片面が終われば裏返す。その一連の所作が、音楽を聴くための時間を、きちんと区切ってくれるのです。

スピーカーは、半世紀を超えて鳴り続けている名機です。デジタルの、どこまでも澄んだ音とは少し違う。針が拾う空気の揺れや、盤のわずかな粒立ちまで含めて、レコードの音です。神戸でジャズを聴くなら、一度はこの「盤で聴く音」に耳を傾けてみてほしい、と思っています。

神戸でジャズを聴く、その入口

「ジャズには詳しくないけれど、聴いてみたい」。それで十分です。むしろ、曲名もアーティストも知らないまま扉を開ける方のほうが、その夜に流れている音を、まっすぐに受け取れることがあります。気になった一枚があれば、マスターに尋ねてください。誰の、いつの録音か、静かに教えてくれます。

神戸の夜は、坂と港のあいだにあります。三宮で食事を終えて、北野坂を少し上がる。あるいは元町からの帰り道に、ふらりとカウンターへ。ジャズバーは、そんな夜の続きにも、一日を静かに閉じる場所にも、ちょうどよい居場所になります。はじめての方は、「初めての方へ」 もあわせてご覧ください。

静けさもまた、ジャズの一部

神戸には、賑やかにジャズを楽しめる場所も、たくさんあります。そのなかで「さりげなく」が守ってきたのは、静けさのほうです。声を張らずに、音に耳をあずける。杯を傾けながら、隣の人の夜を、そっとしておく。その静けさもまた、ジャズという音楽の、大切な一部だと思うのです。

神戸で、静かにジャズを聴きたくなったら。北野坂の坂の途中、三浦ビルの二階を目印に、階段を上がってきてください。看板は控えめですが、扉の向こうには、いつもレコードが鳴っています。店のことは 「さりげなくについて」 でもご紹介しています。